幸せの果実ラフランスのシンデレラストーリー。
昭和40年代、山形県に一風変わった名前をもつ果物がありました。その名は、「みだぐなし」。地元で不美人を意味する言葉です。たしかに収穫されたばかりのその実は、味気ないうえ見た目もごつごつしており、いかにも見栄えの悪い果物でした。当時、子供だった私も、近所の農家の人が「ああ、あのミダグナスねえ、 食ってもさっぱりうまぐねんだ」などと それこそ鼻もひっかけない態度だったのを覚えています。
しかしその後、何年かすると、ラフランスなる「新しい」果物がまさに彗星のごとく突然、登場しました。都会の消費者に受けそうなお洒落な横文字の名前をもつ珍しい果物の出現に、農家はがぜん色めきだちました。それまで、みだぐなしには見向きもしなかった近所の農家もブームに遅れまいとこぞって栽培をはじめました。
ところで、このラフランス、その正体はなんと…。 かつてみんなからバカにされ続けてきた あの不細工でまずい果物、「みだぐなし」だったのです。
…え、なんで?
じつは、ラフランスはもともとバートレットなど他の洋梨の授粉樹として栽培されていたのですが、ごつごつした無骨な外観の上、そのまま食べても堅いばかり。まるでだいこんをそのままかじっているような味気なさでした。そのため誰もあえて食用にしようともせず、みんなから「みだぐなし」と馬鹿にされ見捨てられてきたのです。ところがこのラフランス、収穫した後、一定期間放置しておくと(これを追熟といいます)、それまで石のように堅かった果肉はとろりとやわらかくなり、糖度もまし、そのうえなんともいえない上品な芳香を発散するようになるのです。しかしまたこのラフランス、適切な温度管理もせずそのまま放っておいても、一定の日にちがたつと今度は一気に追熟が進んでしまい、食べる間もなく腐ってしまうという厄介なしろものでもあったのです。
そこで、農業試験場などが研究に着手、やがて追熟のための最適な日数と温度を割り出す事に成功すると、ここに「みだぐなし」の商品化への道が開けたのです。もちろん、商品化にあたっては、「みだぐなし」という不名誉な名称は捨てられ、「ラフランス」という新たな称号がつけられました。かくて、みんなから馬鹿にされてきたかわいそうな果物はやがて誰からも愛される果物の女王へと、まるでシンデレラのように生まれ変わったのでした。めでたし、めでたし…。